『月夜同舟』1(「剣勇伝説YAIBA」アニメ版ゲッコー×ツキカゲ+カグヤ)

 2年前ほど書いた『剣勇伝説YAIBA』アニメ版の月星人兄弟過去捏造小説が出てきました(汗)

 YAIBAが放送されていたのは、確か今から18年近く前(大汗)ですが・・・・・・なぜか2年前に突然萌えが再燃してしまい、書いてしまったのがこの小説。

 まあ・・・・・・場違い・・・・・・じゃなかった、場つなぎのため投下しておきます。


 ちなみにゲッコー×ツキカゲCPでカグヤ様が絡みます。・・・・・・んで、この三人の過去捏造話・・・・・・月星人に関する設定もいろいろ捏造中。 『月夜同舟』1



「かぐや様、月より連絡が入りました。……ゲッコーは明日の早朝にはこちらに到着するものと思われます」

「おおっ、そうか、待ち遠しいのう。奴とも千年ぶりじゃな。どうじゃ、ツキカゲ。牢の中でも奴は変わりなかったか?」

「はっ……なにぶんこの千年間一度も会っておりませぬもので、それはなんともわかりかねます」

 恭しく頭を下げながら、ツキカゲは平静を装って月の女帝・かぐやに対応する。だが、心中は穏やかではなかった。自分の偽りの冷静さが目の前の主に通用できているのかも分析できないほど。いや、おそらく通用してはいまい。だが、これ以上はどうしようもなかった。

 ……明日の朝、嫌でもあの男に会わねばならない。この千年間、逃げ続けてきた弟と。長命の月星人、その中でも特に長い寿命を持つ一族の出身であるツキカゲにとってもそれは決して短い時間ではなかった。それがこんなにもあっけなく再会しなければならなくなるとは。

 玉座に腰掛け、優雅に扇を煽りながらかぐやは静かに笑った。

「ほう。そなたも存外薄情な男よのう。たった一人の弟に、そのような冷たい態度をとるものではないぞ」

 おそらく彼女の口元にはひどく残忍な笑みが浮かんでいる。見なくてもツキカゲにはそれがわかった。

「すでにアレとは縁を切りました。もはや弟とも思ってはおりません。……しかし、私があの反逆者の兄であることも事実。アレの不祥事には当然私にも責任があります。姫がお望みとあれば、処罰は謹んでお受けします」

 今から千年前。つまりかぐやが初代『龍神』によって受けた傷によって長き眠りに就いてからほんのしばらく経った後、あの忌まわしい叛乱事件は起こった。そして月を乗っ取ろうとしたその首謀者こそ、かぐやが眠っている間、月の管理を任せられていたツキカゲの弟・ゲッコーだった……

「異なことを言う。そなたがゲッコーを唆したわけでもあるまいに。しかし……そうじゃな、この機会にゲッコーの処分について考えておかねばなるまい」

 気まぐれのようなかぐやのその言葉に、ツキカゲの肩がわずかに震えてしまった。どうしてこの期におよんで、自分は動揺しているのだろう。かぐやに簡単な返答さえもできない。そんな自分に気がついて、ツキカゲの混乱はますますひどくなった。

(ゲッコー……)

 捕らえられ投獄されたゲッコーの処分は、千年間保留にされてきた。大罪を犯したとはいえ、ゲッコーはかつてはかぐやの右腕と呼ばれた月の最強の戦士。その彼の処分をかぐやの了承も得ずに決めることはできない、と重鎮たちの間で話がまとまったのだ。

かぐやが覚醒した今となっては、いつその話が出てもおかしくなかったが、地球攻略に心を傾けるかぐやはそんな些事にかまう気などないようであった。だからツキカゲも少なくてもこの戦いが終わるまでは、ゲッコーは生きながらえられると安心していた。……何故、安心しているのだろう。ゲッコーが死のうが生きようが、もうツキカゲには何も関係ないというのに。

「もちろん奴には龍神を倒し、龍の巫女を連れてきてもらわねばならぬが、しかしその後は己が犯した大罪のけじめをつけさせねばなるまいて。のう、ツキカゲ。そなたはアレをいかように処分したら良いと思う? どうした? 顔をあげよ」

 もはやかぐやは、少しでも動揺を抑えるために顔を伏せていることさえ許してくれない。ツキカゲの混乱とそれを抑えようと努力する姿を存分に楽しみたいようだ。

 逆らうことなどできず、伏せていた顔を上げると玉座の美しい女王の姿が目に入る。

千年前の初代『龍神』との戦いで人間の女の体に封じられ、本来の姿を失ってしまったかぐや、他の月の民すべてと異なる姿でいることを強いられている姫。だが彼女が持つ威厳も滲み出る本質的な美しさも何も変わらない。例えどれほど姿が変わってしまっても、ツキカゲには己の主を見分けられることができる。

「それに関しては、私は意見する立場にはありません。どうぞ、かぐや様のお心のままに……」

「ほう、そうか。残念じゃのう。もしそなたがどうしてもと奴の助命を乞うなら、長年わらわに仕えたそなたの頼みじゃ、わらわも少し考えてやらんでもなかったが」

「……」

 かぐやは扇を手で玩びながら、それと同じ程度の気持ちで、ツキカゲの心の傷を玩んでいる。だがツキカゲは、かぐやのそんな残酷な遊びに対して恨む気持ちはない。もう遠い昔から、かぐやのこのような面も含めて、彼女を受け入れ仕え続ける覚悟はできていたのだから。

「……ゲッコーの罪は、奴の今後の功によって免じよう」

「……姫」

 ピシャッと扇を閉じ、かぐやはそう結論づけた。

突然賜られた恩赦。ゲッコーがかぐやの期待に応える働きをすれば無罪放免にする、と言っているのだ。もしかして、いや、確実に、最初からそのつもりでいたのだろう。

ああ、まったく、彼女の戯れに本気でつきあっていたら身も心ももたない。ツキカゲは内心ため息をつきながらそう思う。それはもう慣れていることだし、決して不快なことではないのだけれど。

「しかしかぐや様! ゲッコーを許しては奴はまたいつ姫に反逆するとも限りませんぞ」

 一瞬、弟の恩赦がなって安堵しかけたが、慌てて軽く考えているかぐやを諌める。

「おまえもわからぬ奴じゃな。ゲッコーを助命したいのか、処分したいのかはっきりせい」

「私は……」

後の憂いは絶っておいたほうがいい。かぐやに仕える者として言うべきことはそれだけのはずだった。それなのに何故、自分は口ごもるのだろうか。

「……もうおぬしは下がると良い。ゲッコーの処分は今告げた通りじゃ」

「……はっ!」

「もっとも、奴がわらわの期待に添えぬ時は……」

 わかっておろうのう? 

 ひどく優しい声でかぐやは問いかける。その声と対照的に、彼女の目に残忍な光が宿っているのを見て、ツキカゲの背筋に冷たいものが走る。過去に何度かこの目で見た、失敗した臣下をかぐやが扇の一振りでこの世から消してしまう光景を思い出す。ツキカゲだとていつそのような運命に見舞われるかしれなかったが、彼はそれさえも受け入れる覚悟はすでについている。

だが、弟がそんな目に遭った時は? 自分は耐えられるだろうか。

「了解いたしました、姫。……では、また明朝」

 だが一礼をし、かぐやの自室を辞そうとしたツキカゲの背に、追い討ちをかけるかのような一言が投げられる。

「奴の動向が心配なら、そなたを奴の監視につけよう。良いな」

 ツキカゲは振り向き、恭しく応えた。

「かぐや様のおおせのままに」



(結局、最初から最後まで姫の好いようにされてしまったな……)

 母船の長い廊下を歩きながらツキカゲは嘆息した。

 ゲッコーなどもう弟とは思っていないと、彼がどうなろうと知ったことではないと、この千年間、周囲にも己にもつき続けてきた嘘をあっさり見破られ、いろいろと思い知らされてしまった。

立ち止まり窓から闇夜に浮かぶ自分達の母星、月を見上げる。ちょうど満月だった。

いつもあの月から、かぐやとともに緑の地球を眺めていたから、千年前に初めて地球に降り、月を見上げた時は随分奇妙な感覚に囚われたものだった。今はもうそんな感傷は無いが、こうして闇の中で一際明るく輝く姿はまさしく『輝夜』。そして自分達の主もまた、その名にふさわしくどんな夜でも輝き続け、自分たちを導いてくれるであろう。

(ゲッコー……)

 そして自分の弟は、ちょうどこの夜のような美しい『黒毛』をしていた。

 月の民の毛色は大きく二つに分かれる。大多数の民は灰色の毛並みで、高い能力と長い寿命を有する上流の氏族の者は、ツキカゲも含めて白い毛並みで生まれてくる。そしてごく稀に生まれてくる『黒毛』は……不吉な星の巡りの下に生まれた子供として忌み嫌われていた。

(明日の朝、いったい俺はどうあいつと向かいあえばいいのか……)

 千年間も時間があったというのにずっとその問題から逃げ続け、今さら数時間後のことを悩むとはなんと滑稽なことだろう。

 千年前、ゲッコーの処分を保留にするよう周囲に働きかけたのは実はツキカゲ自身だった。彼には決断できなかった。他の重鎮達が弟を断罪するのも受け入れられなかった。

だが他ならぬかぐやの判断なら自分も納得することができるかもしれない。それにもしかしたら、かぐやならゲッコーをあっさり許してくれるかもしれない。そうやって結局かぐやにすべて押し付け、先延ばしにしてきた。
 
そして唐突に決断は下されてしまったのだ。

(もう二度と、ゲッコーとは会いたくなかった)

 今までたくさんの嘘をついてきたが、それだけは間違いなく真実。

 会いたくないのは、ゲッコーを憎んでいるからではない。許せないからではない。許せないことがあるとすれば、それは眠っているかぐやを害そうとした弟をどうしても憎みきることができなかった己自身だ。

 ……ゲッコーに会えば、自分はきっと己の罪を思い知らされることになる。

別に弟が自分に何か言ってくるだけではない。そんな必要はない。ただゲッコーと対峙し、その瞳に映る自分の姿を見るだけでそれは充分だった。

(……きっと、弟を追いつめたのは俺なんだ)

 ツキカゲが逃げ続けてきたのは、弟ではなくその真実、己自身の罪からだった。長い長い時間をかけて、少しづつ、それと知りもせずに弟を傷つけてきたその結果から。

 だが、もう逃げられない。

 ゲッコーと自分、長い間凍りついていた二人の時間はあと数時間で終わるというのに、ツキカゲはまだ何の覚悟も決まらないまま、輝く月を見上げているだけだった。




                                            (続)
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