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『月夜同船』3(「剣勇伝説YAIBA」月星人過去捏造話)

『月夜同船』第3話


前回までの話は↓こちら。


『月夜同船』1
『月夜同船』2
『月夜同舟』3



「ゲッコー?」

 近くに誰もいないのを確かめてから、ツキカゲは弟を呼んだ。暗がりの中で小さな影が動く。灯りをともすと、木造の格子の奥にいるゲッコーの姿が見えた。

「……お兄ちゃん」

 少し泣きそうな顔でゲッコーが格子までにじり寄ってくる。あの後、ゲッコーは罰として屋敷地下の座敷牢に放りこまれてしまっていた。たぶん数日は出してもらえないだろう。

「その……飴持ってきてやったから……ごめんな……何もしてあげられなくて……父上にはもう一度お願いしみるから……」

「お兄ちゃん」

 ふいにゲッコーがツキカゲの言葉を遮る。

「かぐや様の竹、きれいだった?」

「……ああ、きれいだったよ」

 見てきたんでしょ? 続けて聞かれて、一瞬言葉に詰まっていたツキカゲはそう答える。

「おまえも見たかったのか? だからついてきたのか」

 一般に聖地への立ち入りは制限されているが、ツキカゲの一族を含む上流階級の氏族の大人達は、出入りが許されていた。だが、同じ一族でもゲッコーだけは、例え彼が大人だったとしても入ることはできない。彼が『黒毛』であるからだ。

 古来より月の民の間では、ごく稀に生まれてくる黒い毛の月星人は不吉な星の巡りの下に生まれた子供だと信じられてきた。生まれてすぐに殺されてしまうのも多かったという。もっとも、最近では昔に比べてそのような考え方は薄れ、間引かれてしまうこともなくなったが、『黒毛』への嫌悪は強く残っており、差別されることが多い。特に聖地やかぐやに近づくことは厳しく禁じられていた。その不吉な星の巡りが、彼らの女王に悪い作用を与え、災いをもたらすのをとても恐れているのだ。

 だが、ツキカゲはゲッコーのことをそうは思っていない。自分と違う夜の闇のような毛並み、とても美しくて好きだった。何よりこんなにかわいい弟が、そんな不吉な存在であるはずがない。きっとすべてただの迷信なのだ。周りからつらい仕打ちを受け続ける彼がかわいそうでかわいそうでならなかった。

「……お兄ちゃんは、かぐや様が誕生されたら、すぐに宮に行ってしまうの」

 ゲッコーはツキカゲの問いには答えず、逆に聞き返してくる。

「いや、宮に今上がっても姫の役にはまだ立てないし、もう少し実家でいろいろ学んでからだよ。まあ、時々は行くこともあるだろうけど」

 それを聞いてゲッコーの顔が明るくなった。良かった、お兄ちゃんまだ一緒にいてくれるんだ、とやっと笑顔になる。

 ツキカゲこそこんなに可愛く、自分を必要としている弟とずっと一緒にいたい。だが、それは無理な話だだった。やっと笑った弟の顔を曇らせたくなくて言いはしなかったが、すぐにではなくてもかぐやに仕えるためこの家を出ることはもう決まっている。自分は新しい『かぐや』の『添え星』なのだから。

 月の民達は遠い昔から、新しい『かぐや』が生まれるとその誕生を祝して子供を一人、彼女に捧げた。子供は、かぐやと同じくらいの寿命を持つ古い氏族の中から、最も彼女と相性の良い星の巡りを持つ者が選ばれ、『添え星』と呼ばれた。月の民達はこのような『添え星』を女王に捧げ、側に仕えさせることで、その御世が安定し、かぐやが幸運に恵まれると信じていた。ツキカゲが子供ながら聖地に出入りできるのも彼が特別な存在、月の民からかぐやへの敬愛の情をこめた捧げ物であるからだ。

 だから自分のすべてはかぐやのもの。武芸であれ学問であれ、自分がこれから学び身につける能力はかぐやに捧げるためだけにあり、彼女のためであればいつでも命を投げ出す。先代のかぐやに仕えた『添え星』がそうであったように。そうツキカゲは心に決めていた。……ただ、この弟のことだけが唯一の気がかりだった。

「……ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

「ぼくも大きくなったらかぐや様にお使えしたい」

「……そうか」

 かぐやに仕えるのは月の民みなの最高の憧れであった。だが、ゲッコーには無理だ。『黒毛』がかぐやに仕えることが認められるはずがない。ツキカゲの口からはとても言えないが、そのうちゲッコーもそれを理解し、諦めるだろう。

「ぼく、強くなるから……強くなってお兄ちゃんといっしょにかぐや様に仕えるから……お兄ちゃん?」

 ツキカゲは格子越しに弟の体を引き寄せ、できる限り抱きしめた。弟がかわいそうだ。自分達は同じ兄弟なのにどうしてこうも扱いが違うのだろう。ツキカゲはそのことにひどく後ろめたさを感じ、涙を流した。




(続く)
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