『月夜同舟』4(『剣勇伝説YAIBA』月星人過去捏造話)

『月夜同舟』第4弾。


 前回までの話はこちら。

『月夜同舟』1
『月夜同舟』2
『月夜同舟』3 『月夜同船』4



「いいか、ゲッコー。静かに動くんだぞ。ここさえ見つからなければ、大丈夫だからな」

「うん」

 月に新たな女帝・かぐやが誕生してからしばしの時が経った。その新しい主を迎えた宮の中を、ツキカゲは弟を連れて誰かに見つからぬよう進んでいた。

 かぐやの誕生以来、その『添え星』であるツキカゲは自由にこの宮に出入りしていた。かぐやにもすでに何度か謁見している。まだ子供なツキカゲはかぐやの話相手、と言うか遊び相手をまかされていた。

 そのことをうらやましく思ったのか、ゲッコーに自分も一目かぐや様を見たいと強くせがまれてしまった。もちろん、『黒毛』のゲッコーがかぐやの宮に入ることが許されるはずがないが、何度も頼まれてとうとうツキカゲは折れた。そんなにかぐやを見てみたいと言うなら、弟は決して姫に仕えることも叶わないのだから、遠くから一度見せてあげるくらいしてもいいかと思ったのだ。後で思えば軽率であった。

 まだ幼いゲッコーを侵入させる経路を作るのは難しいが、不可能ではない。そして二人は体の小さいのを生かして、うまく身を隠しながら宮の奥まで進んだ。

(……しかし、これは警備の穴だ。後で注意させないと)

 と、ツキカゲは侵入者の立場になって知った警備の薄い場所をチェックし、改善方法を考えたりもしていた。彼の頭は常にかぐやのために何をするべきかを考えるように働くのだ。

「……誰か来る」

 後もう少しかぐやの部屋というところで、ツキカゲは角を曲がった先に人の気配を感じた。慌ててゲッコーと廊下を戻り、近くの無人の部屋に身を隠れて気配をひそめる。

「そこにいるのは誰だ」

 だが、訓練を受けているツキカゲと違ってゲッコーは気配を察することも消すことなどできない。すぐにばれてしまった。しかもこの声は最悪の相手だ、今日は宮には来ていないと思ったのに。

 もう逃げることもできず、ツキカゲは震える弟を抱き寄せ、戸が開けられるのを待つしかなかった。

「……おまえたち……」
 
 剣をかまえ、入ってきたのは二人の父だった。ゲッコーの姿を見て、その顔がみるみる怒りで赤くなる。

「……貴様、こんなところまで……なんということだ……」

 ツキカゲは何か弁解しようとしたが、カゲンの般若のような形相に声が出なかった。父の怒りは本物だ。いつものとも格段に違う、何か恐ろしいことが起きる。

「ゲッコー! 貴様とうとうこんなところまで入り込みおって! よくもかぐや様の宮を汚してくれたな! 今まで生かしておいてやった恩を仇で返すとは……」

 父はまだ剣を収めようとしなかった。その刀身が光るのを見て、ツキカゲは直感した。弟が殺される。父は、本当は『黒毛』の子供の命などどうでもいいのだ。

「ツキカゲ、ソレを渡せ」

「や、やめてください、父上……」

 ツキカゲはいっそう強くゲッコーを抱きしめる。ゲッコーももはや顔をあげることもできず、必死に兄にしがみついて震えていた。

「わからんか、ツキカゲ。そいつは何度罰してもかぐや様に近づくことをやめぬ。『黒毛』はかぐや様の元へ不幸を呼び込む。こやつがやたらとかぐや様に近づきたがるのも何か悪い兆候に違いない。二度とこのようなことが起こらぬようしなければならんのだ。……おまえも姫の身を思うならゲッコーを渡せ。そしておまえが不用意にやったことの結果を思い知れ」

 ツキカゲは恐怖に耐えながら首を振る。だがカゲンは、手を伸ばしゲッコーを掴んできた。

「……やっ!やだぁ! 助けて、お兄ちゃん!」

 ツキカゲはその手を逃れ、体全体で泣き叫ぶ弟をかばう。その様子に業を煮やしたカゲンは、今度はツキカゲを殴った。

「……っ!」

 床に転がってもツキカゲはゲッコーを離さなかった。ここで離したら最後、自分は永遠に弟を失ってしまう。だが、今ここでいくら抵抗しても弟を取られるのはもう時間の問題に過ぎなかった。

(誰か……)

 無駄だと知りながら泣きながらツキカゲは救いを求めた。もう自分はどうなってもいいから誰か弟だけは助けてほしい。誰でもいい、誰かゲッコーを助けて、と。

「これは何の騒ぎじゃ」

 ふいに、凛とした声が響いた。ツキカゲもカゲンも驚いてそちらを見る。

 そこには一人の女(め)の童(わらは)が立っていた。
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