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『恋』(狙撃手二次創作・大春←竜)

 以前、『狙撃手』第9話を元に、大春→竜紹鉄バージョンで、大春が竜紹鉄への恋愛感情を自覚する(笑)話を書きましたが、今度は同じ9話で竜紹鉄が大春を意識しはじめる(笑)SS書いてみます。

 狙撃手9話で、竜紹鉄が目を覚ました直後以外、大春と竜紹鉄は互いに会っていない、っていう展開があったのですが(大春は「国共合作をなんだと思っているんだー」って団長に叱られたので会いに行った)、大春はともかく竜紹鉄は命を助けてもらったのだから動けるようになったら会いに行くべきだろ、と思うんですけどね~。
 でも「(恥ずかしくて)どんな顔して会ったらいいかわからない」とかいう心理だったら納得(私だけが)。
 ちなみに大春が会いに行かなかったのも「どんな顔して会ったらいいかわからない」ということです(私の中では)。
 もうおまいら早く結婚しろ。


 ちなみに大春→竜紹鉄バージョンは『恋の甘さは蜜の味』です。



「……それじゃあ、竜少、もう行くわね。また来るわ」
「……ああ、ありがとう」
 ややためらいがちに言って九児は出て行こうとする。
 まだ自由に動かすことのできない体を炕の上に横たえながら、竜紹鉄はいつもかいがいしく世話をしに来てくれる九児に言葉をかけた。と、言っても元々人に礼を言うのに慣れてない性質だから、傍から聞いたらずいぶんそっけないものに聞こえたことだろう。
 しかし、そんな竜紹鉄のことをすでによく理解している九児は、やわらかく微笑みかえす。その春の陽光のような暖かさに満ちた笑顔に、悲惨な戦場経験ですさんでいた竜紹鉄の気持ちも自然とやわらいだ。

 だが、まだ心に引っかかることがある。

「あっ……」

 出て行こうとする九児につい声をかけようとしてしまい、竜紹鉄は慌てて声言葉を止めた。・・・・・・<あのこと>を聞いて自分はどうしようというのだ。

「どうしたの、竜少?」
 それでも敏感な九児は気がつき、振り返ってたずねてくる。竜紹鉄は、なんでもない、とだけ言う。九児もそれ以上尋ねず、なにかあったらいつでも呼んでね、と優しい言葉を残して、病室を出ていった。
 竜紹鉄は深く息を吐く。さっき、慌てて押し込めた言葉。べつに聞いても良かった、聞くのに不自然ではない状況だった・・・だがなにか後ろめたいような気がして聞けなかった。


「洪連長はどうしている?」と。


 竜紹鉄が八路軍の病院で意識を取り戻してから4日が過ぎている。しかし、4日前に目覚めた時に会ったのを最後に、一度も洪大春という男は姿を見せない。
 ・・・・・・本来であれば、それを不思議に思う必要もない。大春は八路軍の連長だし、病人の相手をする必要はないのだ。八路軍は医者と小梅という看護婦をつけてくれているし、九児までたびたびやってきてくれる。大春がここに現れる理由は何もない。
 九児の様子を見るかぎり、大春は任務に出かけているわけでも、もちろん何かあったわけでもなさそうだ。ただ、来る必要が無いから来ない。べつに自分に会いたいわけでもないから来ない・・・・・・それだけだ。

 自分も彼に会いたいかと言えば、それもよくわからない。正確に言えば、会いたいことは会いたいが、どんな顔をして会えばいいのかがわからないのだ。


『死ぬな! 大少爺! 目を覚ませ!! 覚ませよ! 竜紹鉄!!』
 
 彼の悲鳴のような声が頭の中にはっきりと残っている。あの時、彼に預けていた身体全体にはっきりと刻み付けられているかのように。
 彼の背中に背負われ、命の最後の火が消えていこうとしていた時……すべての苦痛と悲しみから解放され、幸せだった頃の蘇雲暁の笑顔だけを思い出しながら意識を手放そうとしていた時、その幸福な感覚を叩き壊して聞こえてきたのが、彼の叱咤。「生きろ」という叫び。浮上した意識とともに蘇る激痛と自分を背負って走る彼の背中のぬくもり。

『生きろ、大少爺! まだだめだ、生きろ! 生きろ! 生きろ!』

 ……もういいんだ。俺をこのまま安らかに行かせてくれ。

『だめだ、死ぬな! 逃げるなよ!楽になりたいなんて思うな! おい、死ぬな! 俺はここまで苦労して死体を運んできたわけじゃないぞ! 目をさませ竜紹鉄!』

 ……おまえ、震えているぞ? 怖いのか?

『ああ、怖い。おまえがこのままいなくなるんじゃないかと思って』

 彼は泣いていた。・・・・・・いたと思う。
 もうどこまでが本当にあったことで、どこからが無かったことなのか、死の淵から生還した竜紹鉄には曖昧になっている。
 それでも自分を叱咤するあの怒鳴り声は、泣き声でもあった。現実には、大春は涙を流していなかったかもしれないが、それでも彼はたぶん泣いていたのだ。彼の涙が手に触れたことがあるような気もする……あれは、それとも手術が終わって、眠っている時だったろうか? 麻酔で眠っていたのだから、あれは夢だったのだろうけど、大春の手のぬくもりと自分に語りかける声と、その手の上に零れ落ちた涙の感触が確かにあったように思える。

 ……泣くなよ。

 うずくまって泣いている大春に竜紹鉄は手をのばす……その時、自分は地面に落ち、大春に再び抱き起こされていたのだから、そんな光景は現実にはなかった。しかし、確かにあの時大春はきっと心の中で泣いていたし、自分はそれを感じてなんとかしてやりたい、と思ったのだ。

『大少爺、おまえが生きていてくれさえすれば、俺は九児のことだっておまえに譲る。ただ、おまえが生きていてさえくれれば、もうそれだけでいいんだ……行こう、大少爺、お俺たち一緒に行くんだ……俺はおまえが……』

 ……うずくまって泣く大春に自分は手をのばし、大春はその手をとって自分を抱き寄せ、かたくかたく抱きしめた……。
 銃声と日本語の叫びが聞こえていた。だから、きっと大春は追いついてきた日本兵の銃撃から、己の身を盾にして自分をかばおうとしていたのだろう。自分はただその胸に身をまかせ……彼の声を聞いた。


『俺は、おまえが好きだ』


 竜紹鉄はもう一度深くため息をつく。ありえない言葉が記憶されている。
 あの時の記憶は、現実もそうでないものも区別できなくなっている。いくつかは本当に大春が発した言葉だと確信できるが……あれは……。

 現実であったはずがない。そう竜紹鉄は結論づけた。

 彼は同じ男で、共産党の人間なのだ。自分にあんな言葉を言うはずがないし、そんな言葉が出てくる感情が存在しているはずもない……だから混濁した意識の中での幻聴か、記憶の混乱なのだ。

 そう結論づけて、竜紹鉄はふと一抹の寂しさを感じ、そのことにますます自分への嫌悪感を募らせた。
 あれが幻聴だったことを、自分はどこかで残念がっている……とんでもない話だ。それ以前に、死の淵にあってあんな幻聴を聞いてしまう自分はいったい何なのだろう。まさか、これが自分の願望だとでも言うのだろうか、わざわざ死の間際に聞くことを願ってしまうほどの。

 まだ動けない身体がもどかしい。動けない分、頭がいろいろと働いてしまう。

 あんな幻聴を聞いてしまう自分が浅ましい。やはり大春には会えない。あれは確かに現実ではなかっただろうが、あんな言葉を聞くことを望んでしまった自分はどんな顔をして彼に会えばいいというのか。

 やはりこのまま、彼とは会わないで帰ったほうがいいのだろう。命を助けてもらった借りは、いつか返せばいい。もともと、人に借りをつくるのは、いや、自分が弱みを作るのは嫌なのだ。借りを返して、それで今度こそ彼との奇妙な縁も切る。これ以上、他人に自分の領域を侵されたくない。

『おまえって本当に骨の髄まで小国民党気質だな。貸すだの返すだの、朝から晩までそうやって算盤勘定ばっかしてんのかよ』

 また、思い出してしまった。 
 目覚めて開口一番に「この借りは返す」と言った自分に、大春は笑いながらそう言った。貸すだの返すだのどうでもいいことなのだと、そうやって彼我の線を引く必要なんてどこにでもないのだとでも言うように。

 そして、その彼はそれ以来姿を見せない。自分と会う必要がないから。
 再びそこに思考が戻ってしまい、今度こそズキズキと胸が痛みだす。


『大少爺! 死ぬな! 目を覚ませ! 生きろ!・・・・・・俺はおまえを死なせない!だからおまえも死にたいなんて思うな!』

 彼は、自分を安らかな死の淵から苦痛にまみれた生の岸へと引き上げた。
・・・・・・今まで生きてきて、あれほど強く己の生を求められたことはなかった、あれほど激しく自分を求められたことはなかったというのに・・・・・・。



 やはり、彼とは会えない。
 
 だって、自分はこれからもきっと一人で生きていくのだから。そのために、他人を求めるような弱い人間になってはいけないのだから。
 だから、胸の奥に生まれたこの感情の芽は今すぐに摘まなければならない・・・・・・。


 そう決意して、しかし竜紹鉄は胸の奥にある感情を自覚する。

 寂しい、と。彼に会いたい、と。
 その感情だけは、どうしても消すことはできなかった。

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