第8話 死への衝動 生の呼びかけ

8話は腐女子的に神な話なので、「腐」バージョンの記事をじっくり書きたいため単独で紹介します。

8話あらすじ


 日本軍に襲われる村人の救援にかけつける八路軍竜紹鉄も部隊を率いて八路軍に加勢し、九児を窮地から救う。

 大春は竜の加勢に驚き、感謝する。一方秘かに行動していた芥川もこの事態に気付いていた。

 新八旅では張脆文軒に、竜は八路軍とともに何かの作戦に従事していることを告げた。文軒は竜や段旅長に欺かれ、また彼らが八路軍と親密すぎることを憂慮するが、大局を見て重慶方面への報告は控えた。

 日本軍の撃退に成功したものの被害が甚大な村人たちを九児らは慰め、再び日本軍の増援が来る前に彼らを抗日根拠地に避難させることにする。指導員の鄒文は群集に向かって、八路軍と共産党を信頼するよう呼びかけ、彼らを導く。しかし自分達の戦いは無視するようなこの言い方に竜や国軍の兵士は大いに不満を覚える。

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八路軍のやり方に不満を隠せない国軍兵士たち

 九児は一緒に戦ったのにこのような言い方は不公平だと大春に言い、大春も同意する。大春に促された九児は、村人達に竜や国軍の活躍を告げ彼らに対しても感謝するよう頼む。

 それを聞いた竜は九児に対しては少しわだかまりを解くが、八路軍に強力したため処罰を受けるだろうと不満を漏らす銭国良ら国軍兵士と民衆を助けるのは当然という二勇や八路軍への参加を勧める大刀の間に険悪な空気が生まれる。竜はすべての処罰は自分が受けると言って部下を安心させ、大春は竜に迷惑をかけてしまったことに、ますますいたたまれない気持ちになる。

 新八旅では文軒が蘇雲暁に、竜の今回の謎の作戦に対する不満を述べていたが、蘇は突然、竜が芥川を狙いにいったのだとしたら逆に竜の身が危ないと言い出し、どこかに飛び出して行ってしまう。

 九児は彼が責任を問われないよう段旅長に今回の作戦の失敗について説明したいと申し出るものの竜に断られてしまう。大春も竜に対して心からの礼と謝罪をしようとするが、竜に冷たく拒まれてしまう。

 一方、ずっと竜紹鉄をつけ狙っていた芥川は、竜が仲間たちから離れた時に彼を狙い撃つ。竜は一瞬早くそれに気づくものの胸部を撃ち抜かれて倒れる。さらに日本軍の増援部隊が彼らに襲いかかる。

 重傷の竜は力を振り絞り、応戦する部下たちに自分を置いて撤退するよう命じる。日本軍の猛攻の前に銭国良もそうするより他にしかたがないとするが、大春は中央軍ではない自分にはそんな命令に従う義務はない、と強引に竜を背負って逃げる。

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竜を置いて逃げるのは彼自身からの命令だ、と怒鳴る銭とそれを拒否する大春

 大春は背中の瀕死の竜が意識を失ってしまわないよう必死に呼びかけ続けるが、竜からは何の反応も返ってこない。
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瀕死の竜を背負って逃げる大春

 しかし芥川の名を聞くと、竜はわずかに意識を取り戻した。大春は九児のためにも竜を救おうとするものの竜は蘇雲暁のことを思いながら再び死の淵の中に飲まれていってしまう。さらに日本軍が彼らに追いつくが、八路軍の増援を連れてきた九児と部隊を引き連れて駆けつけた蘇に救われる。

 八路軍の病院で手術を受ける竜紹鉄。銭国良は大春に竜を頼み部隊に戻るが、石頭はその場に残る。銭から竜の容態を聞いた蘇はその場で気絶してしまう。銭国良から竜の様態を聞いた文軒は、今後の士気の低下を心配し、段旅長はすでに竜を戦死扱いすることに怒りを露にする。

 大春、九児、石頭は、「竜は生きたいと思っていないようだ」という医者の言葉を看護兵の小梅から聞いてショックを受ける。大春は意識の戻らない竜に語りかけるが、反応の無いことに耐えられず病室を飛び出してしまう。石頭は、新八旅に戻ることを拒否し、「長官は任務を終えるといつもこうしていた」と、泣きながら竜の足を洗う。しかし段旅の人間は留まってはいけないと、無理やり連れ出されてしまう。

 蘇雲暁は「彼が死んだ」と放心状態で自らの腕をナイフで切り刻む。さらにそれを止めた文軒に、「彼が死んで満足か」と当たり、「彼は忘れることのできない男だ」と言って夫を傷つける。



感想

 ・・・客観的にあらすじをまとめてみたけど・・・充分BLっぽいな(汗)。まあ、これはドラマ自体の本質がそうだということの証かな(えっ?)


 今回の見所は別にありますが、まずドラマの中の問題シーンを。

 日本軍に親族を殺され、村を破壊されて絶望している村人達に指導員の鄒文が、呼びかけるシーン。
 こういう共産党員(あるいは八路軍)が絶望的な気分になっている民衆に共産党(八路軍)を信じるように呼びかけ、鼓舞し、導こうとする場面は抗日や革命もののドラマ・映画で非常によく見られるシーンです。(それでだいたいこの後、民衆は共産党を信じることにし、奮い立つという展開につながります)
 こういうシーンは従来、ドラマの中で一つの山場であり、当然、視聴者も(程度の差はあれ)呼びかけれた民衆と気持ちを同調させ、共産党(八路軍)に好感を抱く、ような演出がされます。

 ところがこのドラマの当該シーンには、八路軍だけでなく、竜ら国軍の兵士たちもいました。しかも一緒に戦いました。なのに、指導員の台詞は、彼らの存在・活躍をまったくきっぱり無視するものです。「すべての功績を八路軍の手中に収めてしまい」(小説版)
 画面は鄒文の調子に乗った(わけではないだろうが、そう聞こえるように演出されている)共産党賛美の声をバックに、その一方的な言い方を満面に不満と怒りの色を浮かべて黙って聞いている国軍兵士たちを前面に出します。

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不満をこらえる竜

 明らかに視聴者を民衆や彼らに呼びかけている共産党員ではなく、無視されて忸怩たる思いの国軍(国民党)側に同調させようとする演出です。非常に険悪かつ気まずいシーンです。しかも、国軍兵士がそのような感情を抱くことは誤りだ、というフォローもいっさいなされず投げっぱなしにされています。
 や、革命ものではいっそテンプレとも言える盛り上がりシーンを、視点を少し変えただけでこうも180度逆の後味の悪い場面に作り変えてしまうとは・・・その是非や妥当性はともかくなかなかすごいことでしょう。

 しかし、このシーンは、今回の戦いで共産党側が一緒に戦った国軍の功績まで自分達のものにしてしまった、とことをあからさまに描いているわけですが・・・・・・これではまるで今回の戦いに限らず、共産党はふだんから国軍の功績まで横取りしていた、と言わんばかりに思えるのですが・・・・・・。で、一応一緒に戦ったわけですから確かに功績の半分は八路軍にあるのですが・・・・・・中共に反感を持つ視聴者の中には先走って、中共は全然日本軍と戦わずむしろ戦ったのは国軍だったが宣伝のうまい中共によってその功績が全部横取りされた、とかまで拡大解釈してしまう人が確実にいそうです。(ちなみに私自身はその見解には完全に不同意です。)

 ・・・たださ、冷静に考えてみれば、7話のラストで国軍の兵士たちは日本軍に襲われる村人たちを見殺しにしようとしていたんだよね・・・。もちろん進んでそうしようとしていたわけじゃないけど・・・八路軍側が強硬に救助を主張しなければ確実に見殺しにしていたよね。指導員の中共賛美に一番不満を持っている銭国良なんか飛び出していこうとする大春たちに銃を向けてまで止めていたような気が・・・・・・。なのに、八路軍に功績を全部横取りされた、とか文句を言うのはちょっとお門違いなのでは? とか思った。


 しかしドラマは国軍兵士の言い分ばかり描くわけではありません。

銭国良「竜紹鉄はお偉いさんだし旅長のお気に入りだ。罰なんてうけるものか、代わりに俺たちが犠牲の羊になるに決まっている。きっと何ヶ月分かの給料がなくなるんだ・・・・・・まったくおまえら八路軍はこれをどうしてくれるんだ。俺たち兵士が給料のためにどれだけ苦労していると思っているんだ」
二勇「おまえらは金のために兵士をやっているのかよ、なんて覚悟の無い奴らだ。それにおまえらのその給料っていうのは元は民衆が払った金だ。なのに彼らの危機を救わないなんて、忘恩の輩のやることだぞ」


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 処罰の心配ばかりする銭ら国軍兵士に八路軍の二勇が反論する場面です。
 先の「功績横取り問題」とはまた別の問題ですが、八路軍側の「兵士は何を重視するべきか」および「民衆の視点」に立脚した言い分が述べられます。特に後半部分は、二勇ら農民出身であり兵士になった後もそのことに立脚し続ける八路軍兵士には自明でありながら、上官や軍組織との関係ばかり気にする職業軍人がとかく忘れがちなことでしょう。

 このように「功績横取り」問題では八路軍側に非があるように描かれてましたが、「理念」問題では国軍側の分が悪い。おそらくドラマは八路軍と国軍はそれぞれある面において欠点があり、八路軍には八路軍の国軍には国軍の言い分がある、それはそれぞれ等価である、と言いたかったのではないかと思います。


 さて、この回で注目すべきは大春の反応。
 7話ラストで任務を優先する竜紹鉄をさんざん罵って(TV版では長々とした台詞は無かったですが、その表情と声で大春がいかに竜に対して怒りをぶつけたかがわかります)、飛び出していった大春。そして戦闘の最中、竜が加勢に来てくれたことに驚きますが、戦闘が終わった後、彼は一貫して浮かない顔をしています。

 指導員が国軍の加勢を無視するような発言をしたこともだいぶ気にしているようで

九児「一緒に戦ったのに、(指導員の)あんな言い方は良くないわ」
大春「ああ、俺もそう思う。・・・・・・付け加えてきなよ」



と九児を促し、促された九児は民衆に対して国軍の活躍や竜の素晴しさについて訴えます。
 そして国軍兵士と二勇・大刀の間が険悪になった際には慌てて間に入り、正論を言った二勇はともかくとして、失言をした大刀には「時と場合を考えろ」と諌めています。さらについに竜と別れる際には、意を決して竜の元に行き

大春「竜上尉・・・今回のこと、なんと言っていいかわからないけど、とても感謝している」



と言って握手(←言葉では言い表せないことの表れ)を求めます。

 明らかに大春はずっと、竜に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだったようです。

 戦闘が終わって冷静になった大春は思い至ったのではないかと思います。

 まず、彼は民衆を見殺しにしようとした竜のことを「冷血動物、ファシスト」などとさんざん罵りましたが・・・よく考えてみれば、そのような選択が竜にとって辛くなかったはずはない、と。
かつて、竜が逃亡した少年兵を撃ったことを、竜にとってどうしようもない選択でありどれだけ辛いことだったかを想像したのは他ならぬ大春でした。むしろあえてそのようなことを言わなければならなかった竜の苦痛に今回も気がついたと思います。

 さらに竜の「芥川を倒すことで日本軍に与える影響ははかりしれない」という主張は、つまり日本軍に打撃を与えることはもっと広範囲の民衆の利益になる、という主張です。そのために目の前の民衆を見捨ているというのは大春にはどうしても受け入れられないことでしたが、竜の主張はそれはそれで道理があったことでした。

 この2点だけを見ても、「冷血動物」だとか「ファシスト」だとかいうふうに竜を罵るべきではありませんでした。

 さらに、民衆を助けに行くとき大春は九児に「でもあなたは批判されている身よ! また勝手な行動をしたら・・・」と言われ「俺のことはどうでもいい!」と言い、例えいかなる処罰を八路軍で受けようと民衆を助ける覚悟を決めています。
しかし、大春が動けば必然的に竜の任務が失敗してしまい、そして竜は竜でその責任を国軍で問われることになるのです。そして自分達が竜を巻き込んだにも関わらず、八路軍に属する大春がそれを肩代わりするわけにはいかない・・・・・・。(まあ、竜も八路軍をあくまで強硬におし留めなかったので責任は発生しますが)

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竜への申し訳なさで辛そうな大春

 竜らの加勢で日本軍に勝利した大春だけど、そこに晴れがましい気持ちは少しもありません。まして、竜らの加勢を当然視し、最終的に国軍が八路軍の論理に屈服したなどというふうには、もちろん考えていません。

 私、ここが大春のいいところだと思うのですが。
 彼は民衆を助けることを優先したこと自体は間違っているとも思わないし、後悔もしていないでしょう。たぶん、事前に竜が責任を問われることに気づいていても、同じ選択をしたと思います。
 しかし彼は冷静になった時、自分の選択がいかなる結果をまねいたか(肩代わりできない責任を竜に負わせた)、そしてたとえ正しいことでも言うべきではない(「ファシスト」だのなんだの)ことがあることに自ら気づいたのでしょう。それは自らの「正義感」「信念」を大事にしながらも、それがもたらす別の側面についても考え至ることができるということです。
 このような大春の美点は、この後もさりげなく描かれます。
 ・・・・・・まあ、後30分くらい早く気づけばもっといいのですが(笑)、人に指摘されない限り、あるいは一生気がつかない人も多いですし。


 ……ところで、小説板では大春はまったく正反対の反応をしているんですよね。
 国軍兵士の存在を無視する発言を民衆に向かってしたのは指導員ではなく大春だし、大刀が失言して銭と険悪な雰囲気になった時も止めるのではなくけしかけるような態度をとっています。
 あの……、相手に対して申し訳ない気持ちでいたたまれない気持ちになるのと相手の気持ちを忖度せず調子になるのでは・・・あまつさえ仲間の失言を止めるのとけしかけるのでは、まったく別の人物造詣だと思うのですが・・・・・・。
 ここは大春という人間を語る上で極めて重要な箇所なのに、なんで小説板はTV板とは真逆なこんなに人の気持ちも考えない馬鹿で嫌な男にしてしてしまったんでしょう。私、明るくて威勢が良い小説版の大春のほうが好きな時もあるけど、TV版が良かっただけにこのシーンは本当に嫌だな。
 まあ、これは小説板ではこの時点でまだ例の事件が起きていないことと関係があるのかも。あの事件をまだ経験していないから、小説板の大春はこんなに軽薄な言動をする、ってことかな?



ピックアップ場面

 芥川の狙撃によって重傷を負った竜紹鉄は、部下に自分を置いて逃げるよう命じ、あくまで竜を助けようとする大春にも「俺にかまうな・・・戦場で死ぬのは軍人にとって光栄なこと」と言います。
 それに対して大春は必死で竜を助けようとし、瀕死の彼が意識を失ってしまわないよう呼びかけ続けます。

 しかし竜の手術をした医者は

「弾はすでに摘出したし、出血も止めた。しかしすでに多くの血が失われている。回復するかどうかは、あとはすべて患者自身の精神力にかかっているが、私が見たところ、この人の精神力はあまり強くないようだ」


「先生が言っていたのだけど、この人には生きようという意志が弱い。あまり、生きたいと思っていなようだ、って」



と言います。

 おそらく4年前に村が日本軍に襲われ自分のせいで村人が虐殺された時から、竜には生きようとする意志があまりなくなったのではないでしょうか。積極的に自殺することはできませんが、それでも心のどこかで死んでこの辛さから逃げてしまいたい、という願望が深層心理の中にあったのかもしれません。
 しかしならばいったいどうやって死ぬか?

 その彼の秘かな願望を叶えてくれるかもしれない存在が芥川だったのではないでしょうか? 
 竜は、自分を殺してくれる存在として、それにふさわしい相手として芥川に魅かれていたのではないでしょうか?
 言うなれば、芥川は竜自身の死への願望の象徴的存在であり、そして8話目にしてついに彼を死の淵に突き落としてくれたのです。

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 しかし、生命には、死に抗い生きようとする力もまた同時に存在します。

竜「このまま安らかに死なせてくれ」(小説版)



とまで言う竜の意思を強引に無視して、大春は竜を救うために死力を尽くします。竜を背負って逃げながら、何度も何度も「生きろ!」と叫び続けます。

「今は死ぬのは生きるよりもずっと簡単なことだ」



と言い、楽な道に逃げようとする竜を生の側に引きずり戻そうとします。
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 芥川が竜にとって「死」の象徴なら、大春は「生」の象徴なのでしょう。
 竜の中でこの二人のどちらの存在が大きくなるかは、単に人間関係の問題だけではなく、竜の死生観の変化と密接に関わるように思えます。



おまけ
 
 重傷の竜の手術を八路軍にまかせる銭とその必死の思いを受け取る大春。無言での敬礼。
 これだけで銭に代表される国軍兵士と八路軍のわだかまりが消えてしまうとしたら、それはどうかと思うが、そういうことを抜きにしてもなんかいいシーン。
 ここでの大春は本当にいい顔していると思います。仲間を死なせてしまった後、最初に林団長に自分を銃殺形に処してくれるよう頼んだときもこんなふうな無表情に近いこわばった顔をしていたけど、つらい気持ちの時ほどかえってこんな顔になってしまうみたいだ。

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無言で敬礼を交わす銭国良と大春













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